藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第35回】

「杞菊地黄丸」が効果
肝と腎の強化を重視

 パソコンやワープロと向かいあって仕事を進める現代人の間で、このところドライアイ(眼乾燥症)という目の病気が増えています。
 涙の量が減少し、目の表面が正常な状態を保てず、目が疲れる、目が重い、熱い、ゴロゴロする、充血する、といった諸症状を訴える眼病で、失明の危険はほとんどないものの、つらくて目が開けられない非常にフラストレーションを感じさせる病気といえます。
 ドライアイは目を酷使したり、エアコンなどの乾燥した環境下で一過性のものとして現れる場合が大半ですが、口腔が渇き、全身の皮膚がカサカサに乾き、さらには関節痛などを合併する自己免疫疾患の一つ、シェ−グレン症候群の一症状として現れることもあって軽視できません。
 シェーグレン症候群における口腔乾燥症の漢方療法としては、これまで麦門冬湯(ばくもんどうとう)の有効性がよく知られています。しかし、眼乾燥症の主症状である角膜表層炎や涙液減少症の改善については効果のほどが明らかにされていません。
 この眼乾燥症に対して、「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」が効果をあげたという眼科医からの報告が注目を集めています。これはドライアイの症状を訴えて来院した患者に対し杞菊地黄丸を処方したところ、検査データにいずれも改善がみられたというもの。杞菊地黄丸は、老化予防に欠かすことのできない基本処方「六味丸」に、疲れ目やかすみ目を改善する生薬の枸杞と菊花を加えたもので、別名「飲む目薬」とも呼ばれる方剤です。
 「肝は目を養う」という中国漢方の知恵からもわかる通り、ストレスなどによって肝の働きが悪くなると、疲労けん怠感とともに、疲れ目、視力の減退、といった目の症状が多くなるものです。また、東洋医学における五臓六腑の考え方によると、肝と腎は相互補完の関係にあり、「腎は肝の母なり」という古人の教えもよく知られるところです。
 以上の考え方から、中国漢方の眼病治療では、肝と腎の強化を重視します。肝腎陰虚を改善する基本処方の六味地黄丸に加味された、目の働きを強める枸杞や菊花が好影響を与えているものとみられます。
 麦門冬湯、杞菊地黄丸ともに体にうるおいを与える滋潤作用があるものの、眼乾燥症に対する効果では杞菊地黄丸がよいとされるのは、麦門冬湯が肺・脾を強める生薬が中心であるのに対し、杞菊地黄丸は肝・腎を強める生薬が中心であリ、これが効きめの差となって現れると考えられるわけです。まだまだ治療法の確立していない現代病に対しても、一定の改善効果を現す古くて新しいクスリ---中国漢方が人気を集める理由も、このへんにあるといえます。
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)
※次回は9月27日更新