藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第33回】

体力、気力アップの名薬
ガン治療にも大きな効果

 どの病気に効くというクスリではありませんが、病後や術後、あるいは慢性疾患などで体力を消耗している時の体力回復薬としてよく用いられるものに「十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)」があります。
 いまから約八百年前に書かれた「和剤局方」という中国の古典に登場する処方で、体力が低下したときに、食欲や気力をグングン回復してくれる漢方の名薬として知られています。
 中国漢方の病気の治療法として、これまで血虚に対して血液を増す「補血」、血液の滞る血お(けつお)を改善する「活血化お(かっけつかお)」、気虚に対する「補気」、腎の働きを強める「補腎」の四つを紹介してきました。
 この十全大補湯は、このうちの「補血」と「補気」の作用によって体力アップをはかるものです。生薬の構成でみていくと、血虚の基本薬である「四物湯(しもつとう)」と、補気の基本薬である「四君子湯」をミックスし、さらに体力を補う黄耆と身体を温める作用のあるニッケイを加味して「四+四+二」で“十全”としたクスリです。
 中国漢方では、十全大補湯の適応症を「気血両虚」としており、倦怠感が強い、腰やひざの力が抜けてガグガクする、食欲がない、顔色がさえない、といった全身状態の改善に優れた効果を発揮するクスリとして人気があります。もともとは煎薬ですが、同じ成分を丸薬にした「十全大補丸」も中国から輸入されています。
 この処方は、さらにガン治療に併用すると、治療効果が高まるということでも注目を集めています。
 現代医学のガン治療といえば抗ガン剤や放射線です。ところが、いずれも両刃の剣で、正常な細胞までをも壊して低抗力を弱めてしまうことはよく知られるところです。
 そこで目をつけられたのが、漢方診療医典で「手術不能となり、貧血はなはだしく、悪液質をおこしかけているものに用いて、偉効を奏すことあり」とされる十全大補湯の免疫増強作用です。この漢方薬を併用することで、抗ガン剤の副作用を減少させ、ガンの手術後に用いると、回復が早まることがわかってきました。北里研究所薬学研究部、国立がんセンター、大阪府立放射線中央研究所などから、ガンの種類によっては抗ガン作用の増強効果を認める報告が出されておリ、ガン治療に新しい道を開くクスリとしても期待を集めています。
 
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)