藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第21回】

“証”により使い分ける
早期発見、軽いうちに治す


 体がだるく胃が重い。食欲不振。以前は深酒も平気だったが、年のせいか二日酔いが抜けなくなった。これまで医者にかかったことはないが、疲労感が持続しているだけに心配だ。
 ズバリ! 肝臓に黄信号が点滅中です。会社の健康診断で、肝機能データに異常が発見されるのも、こんなケースが大半です。漢方の威力が広く知られるきっかけになったものの一つに、慢性肝炎など肝臓病に対する「小柴胡湯(しょうさいことう)」の存在があります。
 慢性肝炎や肝硬変など重度の肝障害に対して、西洋医学の側に決定的な治療法が確立されていない今日、小柴胡湯がその特効薬としてもてはやされる気持ちもわからないではありません。しかし、小柴胡湯をすべての肝臓病に適応する全能のクスリとするのは、中国漢方の考え方からいうと、やや無理があります。
 たとえば胃痛の場合、西洋医学では胃の痛みを止めるクスリを処方します。一方、漢方では胃痛の背景を細かく診断(弁証論治)したうえで処方を決めます。気の巡りはどうか、「寒・熱・虚・実」の“証”はどうか、舌の状態はどうか(中国漢方では重要な診察法の一つです)…、その見立てによってクスリは違ってきます。西洋医学では病因をつきとめることが難しく、東洋医学ではクスリを決めるのが難しいといわれるのも、この辺にあります。
 もちろん小柴胡湯も有力処方の一つですが、漢方では大柴胡湯、逍遙丸、杞菊地黄丸、柴芍六君子湯、柴胡疏肝湯、香砂六君子湯など多くの処方例があり、それらを“証”によって使い分けなければなりません。
 中国漢方における肝炎の治療原則は、肝臓の働きを高める疏肝薬(そかんやく)と炎症を抑える清熱利湿薬(せいねつりしつやく)、消化器系の働きを強める補脾薬(ほひやく)の組み合わせを基本に、賢を強める一補賢薬、さらに血行を改善する活血化お薬を症状に合わせて併用し、その総合力で治癒を促します。
 なお、検査データが優先する今日の医療では、異常が数値として出るまでは気のせいとして片づけられることもあります。実際、数値として表れるということは、病気がかなりの段階まで達していることの証明であり、前段階の自覚症状や体調の変化を見逃さないことが、当人にとってはもっと重要なはずです。
 そこで早めに手を打ち、軽い段階で治そうというのが、「未病を治す」という中国漢方の思想です。皮膚の黒ずみ、手のひらの紅斑、イライラ、肩こり、視力の低下、思考の減退、筋肉のこわばり、足のこむらがえり、これらの自覚症状がいくつか表れたなら、GOTやGPTなどの肝機能データに関係なく、漢方による肝の改善強化をおすすめします。
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)