藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第18回】

痔を服んで治す中国漢方
血行改善で肛門周囲の鬱血解消を


 ついつい飲みすぎ、翌日はトイレで頭を抱えて「ハンセイ」。そんな光景が目に浮かびます。
 痔の痛みと出血に悩む日本人の数は、成人以上で3人に1人とも、3人に2人ともいわれています。読んで字のごとく、痔は病だれに寺。だからお寺に入る(死ぬ)まで治らないとまでいわれるやっかいな病気です。この解釈は冗談にしても、ひどく治りにくい病気であることは間違いありません。わが国で痔のクスリといえば軟膏や坐薬ですが、中国漢方ではまず飲みグスリです。
 病気を局所の疾患としてのみとらえる西洋医学と違って、東洋医学は弱った病体を全身的に立て直そうとするものです。痔の場合も例外ではありません。
 中国で痔の名薬といえば、マメ科のエンジュという槐角丸(かいかくがん)です。エンジュの花や種に含まれるルチンには止血作用があり、これに鎮痛、消炎、駆お血効果のある地楡(じゆ)、防風(ぼうふう)、黄ぎ(おうぎ)、当帰(とうき)、枳殻(きこく)などの生薬を組み合わせた内服薬です。
 外痔核や内痔核などのイボ痔や切れ痔に効果があり、痛みや腫れ、出血を速やかに解消してくれます。
 痔の多くは、肛門の周囲に張りめぐらされている痔静脈の鬱血が原因です。この静脈は、門脈という血管につながり、肝臓に通じています。宴会が続いたために持病の痔が悪化したという話をよく耳にします。これは肝臓の鬱血が、痔静脈にはねかえった結果です。
 したがって痔の治療には、局所の痛みや出血をとめる応急処置だけではなくて、全身の血行をよくすることも必要になってくるわけです。
 長い便秘は肛門を刺激し、痔をさらに悪化させます。痔に悩んでいる人にとって、排便を整えることが欠かせません。「槐角丸」には肝臓の鬱血を取り去り、直腸の熱を冷ますことで、便秘を防ぐという作用もあります。
 手術が必要だといわれたが、もうひとつ踏みきれないで薬局・薬店をショッピングしてまわるサラリーマンのみなさん。内臓諸器官のバランスを重視し、西洋医学とは違ったアプローチから痔にせまる中国漢方薬は、一度試してみる価値のあるクスリだと思います。
 なお、局所の症状が激しいときは、塗りグスリとして「紫雲膏(しうんこう)」を併用するとよいでしょう。消炎鎮痛効果の強いムラサキの根(紫根)を配合したこのクスリは、市販の坐薬にも少量ながら入っています。
(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)