藤本 肇

(漢方ジャーナリスト) 健康雑誌・書籍などを中心にフリーライターとして活動し、 特に中国の漢方(中医学)事情に詳しい。編集制作会社 「プラスワン」代表

【第6回】

ストレスからくる胃腸病に「和解剤」


 サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだァ〜♪ は歌の世界だけのお話。やっかいな気配り、おせっかいな上司、ラッシュアワー、妻の小言、住宅ローンなど、サラリーマンにとって、ストレスの種はつきません。中国漢方ではストレスと病気の関係を、どのようにとらえているのでしようか。
 漢方は、精神・身体・環境という、3つの要素のバランスを重視する医学です。
 2千年も前に書かれた中国漢方のバイブル『黄帝内経』(こうていだいけい)には、「喜」や「怒」などの精神作用と病気との関連性が詳しく述べられています。それによると、ストレスの第一の標的は、肝とされています。要点は次の3つです。

@肝は思考をつかさどる
 物事を深く考えるときには、肝臓が重要な役割を担う。
A肝は血液を貯蔵し、新陳代謝をつかさどる
 肝は血液を蓄え、気と血のスムーズな流れによって新陳代謝を促進する。
B肝の病は脾胃(ひい=消化器系)に伝わる 
 肝のトラブルで、最も影響が出やすいのは脾胃である。

 これらのことを踏まえて、ストレスが肝、脾胃に与える影響をまとめるとこうなります。
 「ストレスをかかえて、物事をくよくよ考えるのは、脳に大きな負担となる。その影響は、脳にフル回転で血液を送りこまねばならない肝臓にまず現れる。肝機能の低下は、もともと胃腸に送りこまれるべき血液にも不足をきたし、やがて胃腸障害を引きおこす」  胃腸薬だけを使っても、なかなかよくならない胃腸病。たとえば精神的な緊張が高まると腹痛や下痢・便秘を訴える過敏性腸症候群といった病気には、こうした背景があります。
 以上のことから、ストレスが引き金となった胃腸病は、肝臓の働きを強化しながら、弱った胃腸を立てなおすことが必要です。中国には、肝の機能を高めると同時に、脾胃の働きを促す「和解剤」と呼ばれる処方がたくさんあります。
 開気丸(かいきがん)もそれに属するクスリの一つ。とりわけ過敏性腸症候群の諸症状には有効です。
 開気丸に含まれる生薬(しょうやく)は全部で12。白芍(びゃくしゃく)・川棟子(せんれんし)、延胡索(えんごさく)など肝に働く生薬と、陳皮(ちんぴ)、縮砂(しゅくしゃ)など脾胃(消化器系)に元気をつける生薬、この2つの相乗効果で臓器全体の調子を整えます。
 ストレスといっても、中国漢方では単に精神だけの安定をはかる向精神性のクスリはまれです。あくまで病気を全身的にとらえ、体全体のバランスを整えることで精神の安定をはかるという治療法がとられます。

(藤本 肇・漢方ジャーナリスト)